善行を穢すもの
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自動車事故に遭った人を、海兵隊員が命がけで救助したことが話題になっています。称賛されるべき素晴らしい行為であることは言うまでもありません。
ですが、ネット上ではそれを台無しにしてしまうような言説が流布されています。
沖縄の新聞2紙がそれを報じなかったと難癖をつける産経新聞の記事が、驚くほど拡散していますね。悪意に満ちた記事の内容に触れるまでもなく、2紙への非難の意図があってのことでしょう。
では、もし今回の行為が海兵隊員ではなく、一般の市民によるものであって、同様に報道されなかったとしたら、今回の記事を拡散している人々は、同じ行動をしたでしょうか? そうでなければ、極めて不当と言わなければなりません。
もちろん、新聞社への批判自体をするなと言うわけではありません。それ自体は表現の自由ですから。そのうえで、誤った批判に対してそれを糾弾するのもまた、表現の自由であることも当然でしょう。
マスコミ一般に対して「事件や事故だけでなく、こうした素晴らしい行いをきちんと報じてほしい」という論点なら一理あります。確かに、世の中に失望してしまうような事件ばかりが報道され、それに辟易とする気持ちは自分も大いに理解できるからです。もっと、人間の素晴らしさ、「世の中まだまだ捨てたものじゃない」と思えるような報道を求める立場で今回の論難があったなら、自分も賛同したでしょう。
しかし、彼らの態度を見るに、そのような趣旨ではないようです。
わが身を顧みないで他人を救う。結果の重大さに大小はあれど、こういった行為はこれまでも少なからず存在してきたはずです。これまで、沖縄の2紙は、それをあまねく報道してきたでしょうか。
こういった視点から、そこに取りこぼしがあったことを含めて問題視するなら筋が通ります。しかし、そこを批判しないで、今回の件ばかり殊更に取り上げるとなれば、正当な批判とは言えないと思います。
はっきり言えば、沖縄の2紙を貶めるために今回の件を利用しようという、姑息な悪意を感じざるを得ません。
さらにもう一点、広い視野から見た報道の正確さの観点でも、彼らの非難は問題があります。
もし2紙が今回の件を特別に取り上げて大いに持ち上げたとすれば、それが象徴となり、海兵隊そのものが人道的な素晴らしいものであるかのような印象を与えることになるでしょう。
残念ながら、全体としてみれば、それは実態からかけ離れた誤解になると思います。つい先頃も、海兵隊員の悪質な飲酒運転により人命が失われたばかりですし……
大局的に見れば、今回の件を敢えて取り上げなかった沖縄タイムズと琉球新報の対応は、前述したような誤解が生じることを防ぐ、正しい判断であったと思います。
最後に、わが身を顧みず人命を救った善き人に、心からの敬意を表し、一刻も早い回復を望みます。
そして、その行いを穢し悪意に利用する情報の拡散が止むことを、切に願います。